保護区と愛知目標

こんにちは!

今回は前回に引き続き、国際政策提言勉強会第5回で発表した「保護区」について紹介していこうと思います♪

前回は保護区がどんなものかを知るため、日本の保護区について具体的に紹介しましたが、今回の内容は保護区の愛知目標に対する日本と世界の取り組みと、ポスト愛知目標での議論についてお話しようと思います!

前回の記事はこちら

愛知目標とは?

取り組みの紹介に入る前にまず、愛知目標について少しだけ触れていこうと思います!

愛知目標とはなにか知っていますか?生物多様性条約から順を追って説明していこうと思います♪

生物多様性条約は生物多様性の保全、持続可能な利用、遺伝資源の公正な配分の3つの目的を達成するためにつくられた条約です。この生物多様性条約の3つの目的を達成するため、生物多様性条約に賛同した国同士が集まって国際会議が開かれます。それが締約国会議、COPです!

生物多様性条約のCOPは2年おきに開催されますが、2010年に10回目の締約国会議であるCOP-10が開催されました!

そこで話し合われたのが戦略計画2011~2020です!戦略計画2011~2020では、上の図にある通り目的達成のための2050年までの中長期目標と2020年までの短期目標が設定されました。そしてその短期目標をより具体的にした20個の個別目標が愛知目標です!

要するに、愛知目標は生物多様性条約の目的を達成するための具体的な2020年までの20個の目標ということです!

なぜ愛知目標かというと、COP10が開催されたのが実は日本の愛知県だったからです😊

さて、今回のテーマである保護区は愛知目標20個のうちの11個目の目標です。

 (愛知ターゲット原文の環境省仮訳)

 2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観や海洋景観に統合される。

これが保護区の愛知目標です。何やら難しい言葉でつらつら書いてありますが、ポイントとしては陸域の17%と海域の10%を保護区に指定すること、生物多様性に重要な地域を効果的に管理すること、生態系ネットワークを意識すること、保護区をベースに周りも保全することが挙げられます。

ちゃんと実行できていたら、効果的でとてもいい目標ですね!

愛知目標に対する日本の取り組み

愛知目標がわかったところで、その目標は達成できたのか見ていきましょう!まずは日本です!

愛知目標に取り組む国は国別目標をそれぞれ設定します。日本では陸域の17%と海域の10%を適切に保全・管理するという国別目標を設定しました。さらにこの国別目標を達成するため、4つの行動目標を設定しています。

簡単にまとめると、行動目標1は現状の把握、行動目標2は保護区の指定と管理、行動目標3はネットワーク形成や条件整備、行動目標4は海洋保護区の検討になっています。「海洋保護区」に関しては独立した行動目標が立てられているのが気になります。何故なのでしょうか?

ではそれぞれの目標は達成できたのでしょうか?見てみましょう!

行動目標1:現状の把握

愛知目標が決まった当時の日本はどのような状況だったのでしょう?

国別目標の進歩状況を報告する『国別報告書(下に記載のリンクを参照)』によると、陸域では自然公園・自然環境保全地域・鳥獣保護区・生息地等保護区・保護林・緑の回廊を保護区とみなし、総面積は約76800㎢、割合でいうと国土の約20.3%で、陸域の保護区指定に関してはすでに目標を達成している状態でした😃

しかし、海域では、自然公園・自然環境保全地域・鳥獣保護区・保護水面・共同漁業権区域・指定海域・沿岸水産資源開発区域などが保護区としてみなされ、総面積は約369200㎢、割合は排他的経済水域の約8.3%と報告されており、海域は目標の10%には届いておらず、新たに保護区指定を考えなくてはなりませんでした。

また、海域の保護区、約8.3%のうちほとんどが持続可能な利用を目的とした水産生物の保護培養を占めており、生態系や生物多様性の保全を目的とした自然景観の保護や自然環境・生物の保護に力を入れられていないという現実がありました😢

だから海洋保護区に関しては、行動目標4として別途考える必要があったのですね。

生物多様性条約第6回国別報告書 日本国政府 2018 年 12 月

行動目標2:指定・管理

自然公園を新たに3か所指定し、拡張したほか、鳥獣保護区も4か所を新たに指定し、5か所の区域を拡張しました。自然公園の面積は着実に増加しましたが、鳥獣保護区は新規指定・拡張をしたもののそこまで大きな変化とはなりませんでした。他の自然環境保全地域や生息地等保護区も拡張したものの大きな変化とはならず、ほぼ横ばいでした。

保護林は制度を変更し、区分を7種類あったものを前回紹介した森林生態系保護地域、生物群集保護林、希少個体群保護林の3種類に変更し、より管理体制をわかりやすくすることで、効率化を図りました。

そして対象の保護区においては適切な保全・管理・モニタリングを実施したと報告していました。

そしてなぜか現状把握の段階では保護区とみなされていない天然記念物や名勝地などの文化財に対する支援や都市緑地の指定についても報告されていました。

やっていることを必死に見つけて報告するより、できていないことを報告する方が大事なのではないのでしょうか…?と少し疑問に感じました💧

行動目標3:ネットワーク・条件整備

主に生態系ネットワークの要となる地域の保全・管理の促進、生態系の連続性を意識したネットワーク形成、地域住民や自然保護団体との連携、地域の特色を活かした取り組み・モデルプロジェクトの推進を行ったと報告されていました。具体的な活動としては「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトの実施やサンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020に基づいた活動の実施があります。

参考リンク⇩
つなげよう、支えよう 森里川海プロジェクト
サンゴ礁生態系保全行動計画|サンゴ礁保全の取り組み

行動目標4:海洋保護区の検討

生物多様性の観点から重要な地域を明確化し、自然環境保全地域に新しく沖合海底自然環境保全地域ができました。さらに今年2020年7月にはその第一号が指定されました✨

今までの海洋保護区は水産生物を対象とした沿岸部が基本でしたが、今回沖合の深海が生物多様性の保全目的で指定され、大きな一歩となりました!これからは指定した海域をどう保全・モニタリングしていくかが課題となっています。

沖合海洋保護区記事:伊豆・小笠原海溝など 初の海洋保護区指定へ 海底の環境保全 | 環境

日本の課題

愛知目標に対する日本の取り組みはいかがでしたか?

少しずつ進歩はしていますが、国別報告書には書かれていない課題が日本にはまだまだたくさんあります。報告書では適切な保全・管理を実施したとありましたが、地域住民やNPOなどとの連携や協力、生態系のつながり・連続性を意識した保全などをすべての保護区で問題なく行えているかというと、恐らく行えていないと思います。少なくとも国立公園に指定されている西表島ではイリオモテヤマネコの調査や世界遺産登録について地域住民と軋轢が生じていました。

海洋保護区では生物多様性の保全を目的とした保護区の指定や沖合海底の保全やモニタリング方法の確立などの課題もあります。

さらに、わかものネット内で開催した意見交換会では「保護区の種類が多すぎて複雑であることや関係省庁同士の連携が不十分である」、「どの保護区が生物多様性に寄与する保護区に該当するのかが明確になっていない」などが課題として挙げられました。

こうした課題を今後どう解決していくのか考えなければなりません。

愛知目標に対する世界の動向

日本の次は世界を見てみましょう!

世界全体での愛知目標の進捗を、IPBESが評価し、報告書を作成しています。IPBESとは生物多様性と生態系サービスに関する状態評価を行う政府間組織で、IPBES報告書には世界中の科学者などが集めた情報がまとめてあります。

https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/translation/jp/10574/IPBESGlobalAssessmentSPM_j.pdf

では、昨年発表された愛知目標の達成状況を見てみましょう。それぞれの項目について3色で評価が表されていて、赤色が「停滞または後退」、黄色が「ある程度改善されている」、緑色が「良好」であることを意味しています。

陸域・海域ともにそれぞれ17%と10%を保護区に指定することは達成され、特に海域は急速に指定されました!しかし、沿岸部の指定が多く、深海や外洋は指定されませんでした。

また地理的に特徴のある様々な生態系の集まったエコリージョンという生物多様性において重要な地域の指定が不十分であることもわかりました。

また、河川や湿地の上流から下流のような生態学的な連続性や重要地域、管理の有効性に着目した指定を行っている国は少ないこと、気候変動による環境変化から生物たちが避難できるようなレフュージアを保護区の視野に入れることも必要であることが指摘されています。

しかし、全体評価としては保護区の愛知目標は、他の目標が「停滞または後退」が多いのに対し、「良好」または「ある程度改善されている」の評価で他の目標に比べると高評価でした。

上図、一番左のグラフをみると、途上国で生物多様性において重要な地域をさらに指定する必要があることがうかがえます。途上国は自然環境に力を入れる余裕がないが、自然環境が多く残っており、重要な地域も多いことからこのような低い値が出ているのではと予想されます。今後先進国はどうすべきなのか考えないといけないですね。

IUCNの取り組み

レッドリストを作成していることでおなじみのIUCN(国際自然保護連合)の取り組みについて紹介します!実はIUCN、レッドリストだけではないんです。侵略的外来種ワースト100の選定や他条約との連携、世界自然保護会議の開催など様々な取り組みを行っています。その中でも、保護区カテゴリーとグリーンリストについて紹介します!

まず保護区カテゴリーとは、管理の仕方や度合いによって分類した6つのカテゴリーで、保護区の世界基準として認められています。保護区カテゴリーは適切な保護管理の促進に貢献することを目的としています。必ずしもIUCNの定める国立公園が日本の指定している国立公園に定めなければならないというわけではありません。

保護地域管理カテゴリー適用ガイドライン

そして、グリーンリストは効果的な保護管理がなされており、保護区管理の模範として評価できる保護区のリストです。保護区の自然環境ではなく、管理方法が適切かどうかで評価されます。愛知目標の効果的な管理を具体的に示す基準になり、保護区全体の管理の質の向上につなげることができます。現在では世界で23か所が指定されています。

世界の課題

愛知目標達成に向けた世界の取り組みはいかがでしたでしょうか?最後に世界における保護区の課題について整理しようと思います。

まず、指定については河川や湿地の連続性を意識した指定をすること、海域の概要や深海の指定をすること、地球温暖化を考慮したレフュージアを保護区に指定することが挙げられます。そして管理においては、地域住民や先住民族との連携強化、生態学的に重要な地域や連結性、有効性に配慮した管理をすることが挙げられます。また、保全が目的であるか、効果的な地域が指定されているかなどの保護区の再評価も重要となっています。

ポスト愛知目標

愛知目標はいかがでしたか?

愛知目標の達成にはまだまだ課題がたくさんありました。愛知目標の終わる2020年を迎えた今、これからどうしていくのか再び目標を設定する必要があります。

そこで今話し合われているのがポスト愛知目標です!ポスト愛知目標は生物多様性条約の目的達成のため、次の10年、2030年までの目標のことを指します。まだ名称は決定されていないので、ポスト2020目標や生物多様性ポスト2020目標など色々な呼び方があります💦

愛知目標と“ポスト愛知目標”の違い

ポスト愛知目標と愛知目標では、何がどう変わったのでしょうか?

主な違いは3つあります。一つは具体的な数値が示されるようになったことです。こうすることで、より道筋が見えやすくなり、達成しやすくなります。2つ目はIPBES報告書が指摘した「土地利用」「外来生物」「汚染」「乱獲」「気候変動」を視野に入れたことです。IPBES報告書で報告されている新たな科学的知見を取り入れることで、より効果的な目標を立てることができます。3つ目にSDGs(持続可能な開発目標)との連携です。SDGsにも気候変動や生態系への影響に対する目標が組み込まれており、同じ2030年までの目標ということで連携をとり、両目標の達成を効果的に目指せるようになります。

保護区の愛知目標と“ポスト愛知目標”

保護区のポスト愛知目標はどう変わったのか、愛知目標と比べてみましょう!

下の画像にポスト愛知目標の原案(ゼロドラフト)と愛知目標を並べてみました。

確かに先ほど紹介したように具体的な数値が増えていましたが、保護区の目標では気候変動やSDGsについては触れられていないようです。

私が変わったと思った点は、その他地域(OECM)という新たな概念が加わったこと、景観について触れていないこと、衡平や保護地域システムという言葉がなくなったこと、陸と海ではなく、管理法によって区別した数値があることです。

最初にその他地域(OECM)についてです。OECMとはOther effective area-based conservation measuresのことで、「生物多様性、およびこれに関連した生態系の機能とサービス、ならびに適当な場合には文化的、精神的、社会経済的およびその他の地域関連の価値の域内保全に対し、継続的に正の成果をもたらすような方法で運営・管理される、保護地域以外の地理的に画定された地域」のことです。こうした新たな概念が加わったことで、保護区外の環境も視野に入れることが盛り込まれました。このことから景観についても触れられなくなったと思われます。

また、平衡や保護地域システムという言葉がなくなり、その代わり海や陸を区別せずに管理法によって区別した具体的な数値を盛り込むことで、管理に重点が置かれ、管理の在り方も変わったことが見て取れます。

国際会議で話し合われたこと

ポスト愛知目標はまだ作成段階で、これについて国際会議で様々な議論がなされています。では、前回の2月に行われた国際会議では具体的にどのようなことが話し合われたのか見てみましょう!

主な議題として、保護区の管理手法と、目標で使われる言葉や言語についての2つの議題が話し合われていました!

手法については

  • 「先住民族や文化、地域住民のことを要素に入れるべき」
  • 「保護区同士の連結性を重視すべき」
  • 「モニタリングについて記載すべき」

といった管理手法をもっと具体的にする意見や

  • 「生物資源の盗掘を減らすことに重点を置くべき」

という密猟や乱獲などに目的を置き管理するという意見が出ていました!

確かに手法に関しては目標は具体的な方が達成しやすいので、こうした意見も有効だと思いました!

言葉や言語では

  • 「各国の言語に訳されたときの言語の違いに配慮すべき」
  • 「言葉の共通認識の確認をするべき」

などがありました!言語は国際会議ならではの課題ですね!

内容は生物多様性でも言語や文化などの他分野が絡んでくるのがよくわかります。

他にも目標1と保護区の目標2の要素を融合し、交換すべきという意見もありました。

目標1⇩

1.淡水域、海域及び陸域の生態系を維持及び再生し、土地/海の利用の変化を扱う包括的な空間計画の下にある土地及び海の面積を少なくとも[50%] 増加させることにより、2030 年までに面積、連結性及び一体性の実質的な増加を実現するとともに、既存の手つかずの地域及び原生自然を維持する。(ゼロドラフト環境省仮訳より)

どの意見もとても重要なものばかりでしたね!

調べてみて、私自身はポスト愛知目標では管理について重点が置かれていましたが、私は指定についてももっと言及した方がよいのではないかと思いました。保護区の愛知目標は陸域と海域それぞれの指定については達成されましたが、それでも指定されるべき場所がすべて指定されたわけではありません。特に海域の深海や沖合、河川や湿地の指定が追い付いていないことから、その場所ごとに深海は〇%、湿地は△%というように各場所ごとに指定する面積を定めることが必要であると感じました。

また、エコリージョンやレフュージアなどの重要な地域についてもどこがそのような地域に該当するのかを明確にし、そのうえで重要地域の▢%を保護区に指定すると定めるべきだと思います。

それから、ゼロドラフトに書いてある「厳重な保護」とは一体何なのかを具体的にすることや、ラムサール条約のような他条約間との連携を強化し、お互いに協力して取り組めるようにしていければもっといい目標になると思いました✨

そして、私自身の経験から思ったことは、西表島では保護区指定によって伝統文化や地域住民の生活が不自由になってしまい、環境省の信頼が失われていることや地域住民が主体となって保護管理を行うことが理想であることを考えると、地域住民に配慮した保護区の管理を目標に組み入れ、保護と利用の配分をどうしていくべきかを再度考えることも必要であると考えました。

愛知目標の現状と、ポスト愛知目標についての議論を踏まえ、あなたはどう考えますか?

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