こんにちは!うみるんです!
突然ですが、サンゴ礁って見たことありますか?沖縄や東南アジア、オーストラリアなんかのサンゴ礁は本当に綺麗ですよね。(最近はコロナ禍で旅行に行けないので、僕はペットショップの海水魚売り場で我慢しています…笑)
今回はサンゴの保全についてのお話です。
サンゴと環境問題
先日、モーリシャス沖で日本の貨物船が座礁して重油が流出したというニュースがあったのを覚えていますか?モーリシャスには世界的にも貴重なサンゴ礁があり、流出した重油や座礁によるダメージで現地のサンゴは深刻な影響を受けています。
環境問題の話では、サンゴは最もよく登場する生物の一つではないでしょうか。サンゴというのは気難しい生き物で、生育には強い日光と綺麗な海水、適切な水温・・・などなどの厳しい条件が必要になります。他の生物には影響が出ないような小さな環境の変化でも敏感に反応してしまうのです。
特に、地球温暖化による水温の上昇はサンゴに深刻な影響を与えます。2015年のパリ協定では、産業革命以前に比べた世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えるという目標が掲げられました。
しかし、WWFによると、世界の平均気温が1℃上昇するだけでもサンゴは壊滅的なダメージを受けるとされています。美しいサンゴを守るには、地球温暖化を食い止めることが何よりも重要なのです。
・・・といった話をよく聞きませんか? もちろん、サンゴを保全するにあたって地球温暖化は大きな課題です。
しかし、(実はここからが本題です!!)地球温暖化がサンゴに与える影響が強調される一方で、サンゴを脅かす他の環境問題はスルーされがちではないでしょうか?例えば、海洋汚染やオニヒトデの異常発生、ダイバーや船によるストレスなどがあります。
今回は、深刻な海洋汚染の一つであり、我々にとって身近な琉球列島(沖縄諸島や奄美諸島)で起きている赤土流出問題について考えていきたいと思います。原因となる沖縄の地質から見ていきましょう。
赤土問題とは?
赤土というのはあまり聞きなれない言葉かもしれません。文字通り赤っぽい土なのですが…
地質の違い
そもそも、沖縄などの亜熱帯の島々と本土では地質が違います。詳しくは土壌学の分野になってしまうので、超ざっくり説明します。
土壌の表層部分は、主に黒土と赤土で構成されます。黒土は、落ち葉などを微生物が分解している途中のプロセスです(腐植層といいます)。土壌は先に積もったものから分解されるので、分解が終わると赤土として下に堆積していきます。黒土の下に赤土があるのは基本的に同じですが、沖縄の土壌は本土と比べて黒土層が薄くなっています。
これには、沖縄の気候が関係しています。本土と比べて温暖であり、降水量が多く多湿なので腐植層の分解スピードが速いのです。その結果、分解途中である黒土層が薄くなり、本土であれば地中深くにあるはずの赤土層がすぐに露出してしまいます。
実際、沖縄の土壌は本土と比べて明らかに赤っぽいのがわかります。畑などがわかりやすいですね。
赤土は黒土と比べてパサパサしていて粘り気がないので、雨が降ると地表から流れ出てしまいます。本土であれば粘り気の強い表層の黒土がバリアのように赤土を抑えてくれるのですが、沖縄ではその黒土の層が薄いため、雨が降るとすぐに赤土が流れ出してしまいます。
また、沖縄はスコールのような強い雨が多いことや、地形のアップダウンが激しく急斜面が多いことも、土壌の流出が増える原因となります。
近年になって赤土の流出が増えた理由
以上の特徴的な自然環境に加えて、人間の活動が近年の赤土流出を増やす原因となっています。
山地や森林においては、下草や樹木の根が林床の土壌を抑える働きをしてくれるため、赤土の流出はほとんど起こりません。しかし1972年の本土復帰以降は土地の開墾や開発が急速に進み、かつて森林だった場所の多くが農地や住宅街となりました。その結果、近年になって赤土の流出が急増し、社会問題になっているのです。
特に、森林と違って畑(特に耕作をしていない時期)は土壌が露出しているので、赤土の流出量が多くなります。また、工事中の工事現場や米軍基地からも赤土の流出が起こります。
まとめると、
「沖縄はもともと赤土が流出しやすい環境であり、人間の活動が流出を助長している」
ということになります。
赤土が海に流れると・・・
流出した赤土は、用水路などから周辺の川に流入します。本土と違って沖縄の川は短いので、赤土は途中で川底に堆積することなくそのまま海へ流れ出してしまいます・・・
写真のように、激しい雨が降った後は流出した赤土により河口が濁ることが多くなります。
特に、沖縄の沿岸ではサンゴ礁がプールのような形に発達しており(イノーと呼びます)、遠浅になっています。イノーの内部は水の循環が少ないため、河口から流れ出した赤土は外洋に出ることなく沿岸をしばらく漂うことになります。
海中を漂う赤土は、日光が海底まで届くのを遮ってしまいます。サンゴは体内で褐虫藻を飼うことで光合成をしているため、海中が暗くなるとすぐに死んでしまう(白化)のです。また、赤土がサンゴの上に積もると、サンゴが窒息死してしまうこともあります。これが赤土の引き起こす最も厄介な問題です。
サンゴの白化は、サンゴ礁をすみかにしている魚などの海洋生態系も大きく変えてしまいます。このままでは、近い将来に沖縄の海から美しいサンゴ礁や魚たちが消えてしまうかもしれません。
中には、「沖縄のサンゴは地球温暖化より前に赤土の影響で絶滅するのでは!?」という噂もあったりします・・・恐ろしいですね。
赤土対策の現状
それでは、どうしたら赤土による被害を抑えることができるのでしょうか?
・・・当たり前ですが、「赤土を流さない」ことです。
例えば、工事現場であれば土囊袋の設置などにより土壌の流出を防ぐことができます。
近年の赤土流出の急増を受けて、沖縄県は工事現場における赤土対策を事業者に義務付ける「赤土等流出防止条例」を制定しています。このおかげで、最近では工事現場からの赤土の流出はかなり減ってきました。
しかし、この条例で赤土対策が義務化されたのは工事業者だけで、農地からの流出対策については規定されていません・・・
そのため、現在流出している赤土はほとんどが農地由来のものです。これからの赤土問題の解決のためには、農地からの流出を抑える方法を考える必要があります。
グリーンベルト
農地からの赤土流出を防ぐ方法の一つとして、グリーンベルトがあります。グリーンベルトとは、畑の周囲にレモングラスやベチバーなどの別の作物を予め植えておくことで、降雨時の赤土の流出を畑の周囲でせき止めるというものです。
グリーンベルトは赤土対策として以前から注目されており、植え付けを奨励しているNPO団体や体験プログラムもあります。このような普及啓発の結果、最近ではグリーンベルトが植え付けられている畑も少しずつ増えてきました。
しかし、グリーンベルトは赤土の流出を完全に防いでくれるかというと、そうでもありません…
実際に雨の後にグリーンベルトが植え付けられた畑を覗いてみると、依然として赤土が流れ出していることがわかります(普通の畑よりは少ないですが)。
これまで行政や民間によってグリーンベルトの推進が行われてきましたが、赤土対策におけるグリーンベルトの効果は十分とは言えないのです。
マルチング
農地からの赤土流出を防ぐ方法として、グリーンベルトの他にマルチングがあります。耕作をしていない時期の畑の表面に雨天時に草刈りで刈った草を撒いたり、マルチ(畑によく張ってある黒いシートです)で全体を覆ったりすることです。グリーンベルトと違って畑の表面全体を覆うことになるので、効果は大きく赤土の流出はほとんどなくなります。
しかし、一度植えればいいグリーンベルトと異なり、雨が降るたびに畑全体で作業をしなければならないので、グリーンベルトに比べて手間がかかります。
法整備よりも地域の意識向上を
工事現場と違い、農地については法整備で対策を義務化するのは難しそうです。
過疎化と高齢化が進む現地の農家の方々にとってマルチングなどの赤土対策は大変な作業であり、作業をこなしたところで経済的なメリットはありません。農家の方々のこのような反発があるため、住民との衝突を避けたい行政は法整備ではなく「対策をお願いする」という形に留めているのが現状です。
とは言っても、マルチングなどの作業は農家の方々だけで取り組むのは大変ですが、周囲の住民の協力があれば十分こなせる作業です。農家の方々に対して補助金や罰則を設けるのではなく、環境保全に向けて周辺の住民が積極的に協力することができる社会システムを構築することが赤土対策の鍵となります。
赤土問題に限らず、環境開発や不法投棄などのいわゆる「ローカルな環境問題」を解決するにあたって最も重要なのは、地域での環境教育を推進して「地元の環境をみんなで守ろう!」といった意識を持つことではないでしょうか?
久米島での取り組み
最後に、僕がお世話になっている「久米島ホタル館」で行われている環境教育プログラムを紹介します。
久米島は、沖縄本島の西、約100kmに位置する離島です。那覇からはフェリーで3時間ほど。はての浜などの観光スポットを抱えつつも沖縄古来の雰囲気が残る島です。
「沖縄の自然」といえばやんばるや西表島などに注目が集まってしまうこともあって話題に登ることは少ないかもしれませんが、久米島にもクメジマボタルやキクザトサワヘビなどの貴重な固有種が生息しています。
久米島ホタル館では、このような貴重な久米島の自然環境を守るための保全活動を行いながら、環境教育やエコツアーのプログラムを開催しています。
川の泥上げ体験では、川に溜まった赤土をバケツで汲み上げる作業を体験することができます。水を吸った赤土は非常に重く、川底から汲み上げるのは大変な労力が必要です。「これだけの量の赤土が海に流れたらどうなるんだろう・・・?」というように、非常に考えさせられる体験です。
他にも、地域の子どもたちを巻き込んでのネイチャーゲーム、島外からの団体客を受け入れてのSDGsをテーマにしたエコツアーなどの様々な取り組みが行われています。
環境への意識を高めるために、このような活動にぜひとも協力し、普及啓発をしていきたいものですね。
おわりに
今回は、琉球列島の地域特有の環境問題である赤土についてまとめました。本土ではなかなか耳にすることがない話かもしれませんが、コロナ後の沖縄旅行に備えて一度考えてみては?
次回は、沖縄からはるか東へ1200kmに浮かぶ絶海の孤島、小笠原諸島の特集をしたいと思います。お楽しみに!
※今回の記事の執筆にあたっては、元沖縄県赤土監視員の佐藤直美氏にアドバイスをいただきました。ありがとうございます。