夏のこの時期によく食べるうなぎ。夏に食べる鰻重、美味しいですよね。
日本でよく食べられているうなぎは、ニホンウナギという種になります。そんなニホンウナギが実は絶滅危惧種だとを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
今回は土用丑の日というとこで、「本当にニホンウナギは絶滅危惧種なのか」「どうしてニホンウナギの数が減っているのか」「絶滅させないためにどうしたらよいのか」といった疑問について説明していきたいと思います。
うなぎってどんな生きもの?
ウナギはそもそもどんな生きものなのでしょうか。まず最初に、ウナギの種とその中でも特に日本で有名なニホンウナギの生態について説明していきます。
ウナギの種
ウナギ科には16種3亜種が確認されています。広い海域を回遊するウナギにこんなに種類がいるなんて驚きですね。近縁なものにアナゴ科があります。
この中でよく食用とされているのは、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギそしてニホンウナギの3種です。
日本にはニホンウナギとオオウナギがいます。日本でよく販売され、食べられているのはニホンウナギです。以下ではニホンウナギについて詳しく説明していきます。
ニホンウナギの生態
ニホンウナギは小笠原諸島のさらに南に位置するマリアナ海嶺で春から秋に生まれます。孵化したあとの4~7ヵ月はレプトセファルスと呼ばれる透明な幼生の姿で黒潮に乗って運ばれます。その後シラスウナギの姿になると黒潮を離れ、一部は東アジア各地の川に上ったり、沿岸の汽水域で暮らします。
成長していくとオスでは5~10歳、メスでは7~15歳で性成熟が始まり、成熟したニホンウナギは再び海へ下って産卵場へ向かいます。
東アジアの各地のニホンウナギには遺伝的な違いがほとんど知られていないため、同じところで産まれたものが各地で成長していると考えられています。
これだけのことが明らかにされていますが、資源管理や保全を効果的に行うために必要となる科学的な情報の蓄積は足りていません。
ニホンウナギは絶滅危惧種ってホント?
日本ではニホンウナギが土用の丑の日などによく食べられていますが、「本当に絶滅危惧種なのか?」と疑問に思う方も多いのではないかと思います。
世界の絶滅危惧種を指定しているIUCNのレッドリストでは、ニホンウナギはEN(endangered:絶滅危惧種)と指定されており、日本の環境省によると絶滅危惧種IB類(EN)と指定されています。
絶滅危惧種IB類(EN)は、どれくらい絶滅の危険性があるのでしょうか?
環境省のレッドリストでは「絶滅危惧IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種」とされています。これに指定されるときの基準はいくつかありますが、ニホンウナギの場合には、過去3世代の間に個体数の50%以上減少したと推定されることからIB類に指定されました。
ウナギの採捕量という間接的な指標ではありますが、個体数が減少していること自体は間違いなさそうです。
ニホンウナギが減少する理由
では、なぜニホンウナギは減少してしまっているのでしょうか。主な原因は、生息環境の変化とうなぎ漁業のあり方です。その中でも問題になっている、「①気候変動」「②河川の開発」「③違法な漁業・取引」の3つについて紹介します。
減少の原因①:気候変動
1つ目の原因として、気候変動による海洋環境の変化が考えられます。
現在、地球温暖化により、海水温度が上昇や、海流の変化といった現象が引き起こされています。このような海洋環境の変化はニホンウナギに大きな影響を及ぼします。
ニホンウナギは、マリアナ海嶺のあたりで産卵をし、その後海流に乗って日本を始めとする東アジアの河川にやってきます。地球温暖化で海水温度が上昇した場合、ニホンウナギが産卵する海域の緯度が下がり、結果として海流に乗って東アジアまで移動できなくなってしまうと予想されています。
このように、地球温暖化は、マリアナ海嶺から東アジアの沿岸や河川まで移動するニホンウナギの回遊経路に大きな影響を及ぼします。海水温度や海流が変われば、ニホンウナギの繁殖は困難になります。
減少の原因②:河川の開発
2つ目の原因として、河川の開発による影響が原因として挙げられます。
私たちは農地の獲得や効率化をするため、住宅地や工場をつくるために、また洪水などの自然災害から生活を守る方法の一つとして、川やそれにつながる堀や水路を開発してきました。自然のままの状態を残した水辺は日本にはほとんど残っていません。
その中で細々と生き残ってきた生きものたちに最後の一撃を与えてしまうような開発も行われています。ニホンウナギもそれらの影響を受けたことでしょう。現在ではニホンウナギが見られない川や水路でも、地元の方に話を聞くと「昔はたくさんいた」という話を聞くこともあります。
ニホンウナギは体長6,7cmの頃から100cmを超すまで沿岸域から河川周辺で餌をとって成長します。当然、体の大きさなどに合わせて様々な餌を利用していると考えられます。そのため、どの大きさのウナギも暮らせるような多様な環境が多くのニホンウナギを育むはずです。
また、ニホンウナギは高い遡上の能力をもっていますが、それでもダムや堰などによって自由に上り下りができなくなることがあります。防災や農業の効率化、発電などの利益と、自然環境を保全することによる利益を一挙両得にしたり、2つの利益のバランスをとることができないか、それぞれの地域で考えていきたいですね。
減少の原因③:違法な漁業・取引
これらのような生息環境の変化の他に、ウナギ漁業にも問題があります。なんと、養殖に使われるニホンウナギの稚魚のうち、約半数は密猟などによる違法取引の疑いがあるといわれているのです。
密猟されたニホンウナギは、もちろん資源保全を配慮せずに漁獲されています。絶滅危惧種にもかかわらず、違法なやり方でウナギが漁獲され続ければ、個体数も管理できず減り続けてしまいます。
また、ヨーロッパウナギの密輸も問題視されています。ヨーロッパウナギは近絶滅危惧種CRの種であり、ワシントン条約によって輸出が禁止されています。しかし日本を始めとするアジアでの需要が高いため、稚魚が密輸されているという現状があります。
このような密猟や密輸が続けば、ニホンウナギだけでなく食用とされる他の種も、個体数が減り絶滅へと向かってしまうことでしょう。
“ニホンウナギ”を守ることの意味
ニホンウナギが置かれている現状やその原因について説明してきましたが、ニホンウナギを守ることにはどのような意味があるのでしょうか。ニホンウナギを種として守ることの意味と、ニホンウナギを文化として守ることの意味の2つを説明していきます。
ニホンウナギを種として守ることの意味
ニホンウナギは、水辺の環境と生物多様性の豊かさを図る指標となる種です。そのため、ニホンウナギは水辺の生物多様性を守る上で重要な種であると考えられます。
まず、ニホンウナギは河川や沿岸域の生態系の環境の指標となります。ニホンウナギは海洋で生まれ沿岸域から河川の上流域に移動して成長します。ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)が沿岸域から河川の中上流域までうまく移動できない場合は、その河川の海とのつながりが良くないということであり、対策が必要と考えられます。
また、ニホンウナギは水辺の生物多様性の豊かさの指標にもなります。淡水の生態系ピラミッドの頂点にいるニホンウナギが生息できる環境には、それを支える生産者や餌となる小型の生物が豊かに生息していることが条件となります。そのため、ニホンウナギが生息できるかどうかは水辺の生態系の豊かさを測る指標となります。
つまり、ニホンウナギが生息するにはその水辺の環境が整い、豊かな生物多様性があることが必要なのです。このことは、ニホンウナギの保全が周辺の淡水生態系全体の保全に繋がることを意味します。
このように、ニホンウナギの種の保全によって、水辺の生態系の保全・回復が期待できます。
ニホンウナギを文化として守ることの意味
ニホンウナギは、日本の文化としても重要な生きものです。「万葉集」にもウナギを夏場に食べるという内容の和歌が載っているほど、ウナギを食べる文化は昔から続いています。
ちなみに土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、江戸時代の中頃に平賀源内が発案したと言われています。うなぎ屋が夏場にウナギを売るために、平賀源内が「本日、土用の丑の日」という張り紙をして滋養のつくウナギを売り出した所、繁盛したことが始まりだったという言い伝えがあります。
現在でも土用の丑の日にウナギを食べるという習慣は続いており、滋養のあるウナギを夏場に食べることは、昔から続く日本の文化の1つといえます。これからも夏場にウナギを美味しく食べたいですよね。
しかし、ウナギの絶滅に配慮せずに消費し続け、本当に絶滅してしまったら…将来、ニホンウナギを食べるという日本文化も消失してしまうかもしれません。
ニホンウナギという種を残すために文化を捨てるのではなく、日本の文化を残すために、ニホンウナギを守る方法を考えてみませんか。
以下では、ニホンウナギを守るために行われている日本の取り組み、そして私たちにできることを紹介していきます。
ニホンウナギを守るための日本の取組み
先程紹介したように、生物種としても文化としても重要な生きものであるニホンウナギ。絶滅させないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。日本で行われている、ニホンウナギを守るための取組について紹介していきます。
①ニホンウナギの稚魚や親を獲りすぎないようにする
生きものを守るために、子どもを採らないことは大切ですね。しかし、ニホンウナギを養殖するためには、子どもを獲って育てる必要があります。
そこで日本は、稚魚であるシラスウナギを獲ることを許可制にしています。許可なくシラスウナギを獲ると、犯罪になります。獲る時期や方法にも決まりを設けています。さらに、獲る量を管理するために、養殖池に流通させる量に制限を設けています。
また、生きものを守るために、これからたくさんの子供を産む親を獲らないことは大切ですね。そこで一部の都道府県では、川を下る途中のニホンウナギを獲ることを禁止したり、自粛や獲っても逃がすことを呼び掛けたりしています。
②ニホンウナギの生息地域を整える
ニホンウナギが子どもから大人まで暮らせる場所がたくさんあれば、早く大きく成長したり、たくさんの個体が暮らせたりするかもしれません。
そこで各地で川を上る障壁となりそうな大きなダムの建設の際にウナギを配慮したり、生息地となる川底や川岸の環境を改善する取組みがあります。この取組みは、ウナギ以外の魚にとっても個体数回復の助けになるかもしれません。
③ニホンウナギについて調査研究を行う
ニホンウナギの生態はまだまだ解明されていないことも多くあります。国の省庁や各地の研究所、大学の研究者がウナギの生態や生産技術を研究しているそうです。ニホンウナギの生態を解明することは、保全につながります。
ニホンウナギを守るために私達が出来ること
日本として行っている取組みを説明してきましたが、私たち市民がニホンウナギを守っていくためにどんなことができるのでしょうか。私たちが消費者として身近に取り組めることを、3つ紹介します。
①ウナギの代わりとなる食材を食べる
欧州では、ヨーロッパウナギの絶滅を回避するために、伝統的な「ウナギ料理」にウナギと似た白身魚を使用しているそうです。日本でも、どじょうの蒲焼きなど、「ウナギフリー」を謳いウナギの代替品を販売する取組みが見られます。
ニホンウナギの代替品を探して、いつもと一味違った「ウナギ」を食べてみてはいかがでしょうか。
②持続可能に漁獲されたウナギを食べる
日本では密猟されたウナギが多く流通しています。私達が出来ることの一つは、密猟のように持続可能性に配慮せずに獲られたウナギを買わないことです。
例えば、イオン株式会社は「2023年までに100%トレースできるウナギの販売」を掲げる「ウナギ取り扱い方針」を発表し、違法に取引されたものでないシラスウナギを養殖したニホンウナギを販売することを発表しています。
このように、将来も美味しくウナギを食べるために、自分が食べるウナギがどのように漁獲されたのかを配慮してウナギを選びましょう。
③ウナギの現状について知る、発信する
ニホンウナギの現状や、私たちにできる選択について発信しましょう。ニホンウナギについてSNSで発信したり、身の回りの人にウナギについて話題を持ちかけてみるのも良いかもしれません。
少しでも多くの人が、ニホンウナギと日本の食文化の危機に気づき、自分にできることに取り組むことができれば、ニホンウナギは絶滅をまぬがれるかもしれません。
最後に
ニホンウナギは、日本の食文化として古来より食べられ続けてきました。絶滅してしまったら食べられなくなってしまいます。そんな未来を迎えないために、私たち市民ができることから行動をしていくことが大切だと考えます。
この記事が、ニホンウナギの現状や、守るためのアクションについて知るきっかけになればと思います。